わたしが、小学生だった頃。
【わたしが、コーヒーが好きな理由】
わたしが、小学生だった頃。
平日は遅く、土日も寝てるか、
ほとんど家に居なかった父が、ほんの時々、
連れて行ってくれた喫茶店がコメダ珈琲だった。
名古屋の、古びたビルの一階。
隣には街の書店があった。
当時のコメダは、今のチェーン店風情な
雰囲気とは全く異なっていた。
そして記憶の中では、いつもおばあちゃんが
ひとりで、切り盛りしていたお店がある。
父は、美味しそうにタバコを吸いながら、
またまた美味しそうに、コーヒーを飲んでいた。
わたしは苦くて、コーヒーを飲むことができず、
いつもココアだった。
『クリームを上に乗せる、
甘いコーヒーもあるよ。』
と、父に薦められて、
初めて飲んだのは、ウインナーコーヒー。
とてもおいしく、その日以来、私は
ココアをやめて、ウィンナーコーヒーを頼んだ。
ある時に、
『本当はね、もっと美味しい飲み方があるんだ。
なおちゃんが、大きくなったらね。』
と、父はタバコを吸いながら、
ワクワクするようなことを教えてくれた。
それはなんだろう??
それ以来、行くたびにワクワクと、
ナゾナゾに想いを馳せた。
知る日は、もうまもなくやってきた。
ちょうど両手で数えられる数に達した、
わたしの誕生日。
その日。
父に書店でプレゼントの本を買ってもらい、
喫茶店へ行ったのだった。
『今日は、誕生日だから!
もう大きくなったんだから、教えてよ。』
わたしはワクワクしながらお願いした。
お父さんは、おばあちゃんに、
『夜のアレをお願い』と言った。
そして、おばあちゃんは、
透明な茶色の飲み物と、スプーンを持ってきた。
ほんの少しだけですよ、と。
お父さんは、スプーンに茶色い液体を垂らし、
スプーンのお尻をライターの火で炙った。
とても甘くて、少しツンとする。
不思議な香りがあたりを漂う。
『よし、もういいだろう。』
そういって、
ウィンナーコーヒーのクリームに、
その茶色い液体を静かにひと垂らしした。
『飲んでごらん。』
少し苦くて、芳しい。
舌の上で、トロリのとろけるクリームに、
それは、大人の飲み物の香りだった。
ステキな誕生日の夜。
わたしは大人の飲み物で、
とても嬉しい気持ちだった。
この日のわたしは、いつもより、
一層大人になったような気がしたものだ。
ライターの火で炙り、
スプーンの上に乗せた飲み物は、
ブランデー。
火で温めて、父は僅かながら、
アルコールを飛ばしてくれていたのだった。
そのコーヒーの名前は、
アイリッシュコーヒーだった。
今になって。
コメダ珈琲店のメニューに、はたして
アイリッシュコーヒーがあったのかどうか、
気になって行ったことがある。
メニューには、
ウィンナーコーヒーはあるけれど、
アイリッシュの提供はない。
あの昔。
おばあちゃんは、こっそりと奥から
ブランデーを出してきていたような気もするし、
もしかしたら、おばあちゃんの心意気。
そして、行きつけだった父との、密かな
お楽しみメニューだったのかもしれない。
当時、わたしの父はとても厳格で。
あまり家で見かけない、怖い人だった。
いつも話しかけるタイミングをこっそりと、
緊張しながら、見計らって過ごしていた。
そんな中の数少ない、小学生の頃の、
ワクワクとする父との記憶。
とても特別な時間を共有したんだわ。
という温かな記憶が、なぜか少し、
懐かしく切ない。
そして、ちょっとだけ
誇らしい気持ちにさせてくれるのだ。
わたしが、コーヒーが好きな理由のひとつ。
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